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[ 2024.01.02 ]

ChatGPTと蚕の夢

新春が地震とともに訪れた。救出を待っておられる方々が少しでも早く発見されること,被害が少しでも軽く,少しでも早く回復されることを心から願う。また,この厳寒の中,インフラが早く再開されること,救出活動に当たられる方々の安全を心から願う。

ところで昨年の春は,ChatGPTのちょっとした悪夢から始まった。

ちょうど実家の納戸の片づけをしていた際,おそらくは40年~50年もの長い年月,納戸の奥の箪笥の中で眠り続けていた着物を発見した。その中に,私の寸法と思われる仕付け糸のついた着物もひっそりと眠っていた。見慣れない色とりどりの紐や,枕状,板状の小物,木綿の下着と思われる物や,縫い繋いでカスタマイズされたものとみられるタオル類が発見された。恐る恐る着物を広げてみたが,まず全部広げるだけのスペースが見当たらない。ベッドを利用して何とか広げてみたものの,次はたたみ方が分からない。しかし,鮮やかな絹の色と職人の手仕事の刺繍や染めの花々,何の造形かは不明だが,おそらくは何等かの祈りや願いがこめられたを思われる自然由来のデフォルメされた柄(後に「麻葉」の柄と判明)が妙に脳裏に焼き付いた。何とか折り跡にしたがって,かつyoutubeで検索しながら着物をたたみ,箪笥を離れた。

その後,なぜか絹糸と蚕のことが気になり,絹糸がどうやって作られるのか,着物一枚に繭がいくつ使われているのかを調べてみた。なんと,蚕は成長の過程で繭を作り,やがては繭を破って成虫になるはずが,その前に繭ごとゆでて絹糸が取り出されていることが分かった。蚕の吐く糸はどこまでも一本につながっているので,繭一つからは1本の糸が容易に取り出せる。もしも蚕が繭を破ってしまったら,糸は一本ではなくなり節目の継ができてしまい,滑らかな光沢は得られない。つまり,絹糸は殺生により成り立っている繊維だったのだ。美しさと,おそらくは加工の容易さのために!着物とは何と業の深いものであろうか…。沼と言われるのも蚕の怨念ではなかろうか。もっと調べていくと,蚕は繭を破っても飛び立ち生を謳歌することはできず,移動も困難で,口はあっても食べることができず,栄養を取れないため自力で生きられない。そのような種に,人間によって長い長い年月をかけて改良されてきたことを知った。着物とは何と業の深いものであろうか。

その夜,変な夢を見た。その世界では,進化したChatGPTが,人間という動物の利用価値の高さに注目していた。複雑に動く関節,器用な手先,勤勉に作業を続け成果を実現する脳と肉体,美しい髪,肌,目,これらを全て機能と割り切り,改良し,掛け合わせ,効率化して利用される世界があった。まるで人間が蚕にしてきたことのように…。あまりに寝覚めが悪かったので,誰かに話さずにはいられず,翌日早速知人に話したところ,「それすでにスピルバーグが映画化してますよ,「AI」ってやつ。」と教えてもらった。早速見たが,なるほど似た世界があった。想像よりはグロテスクではなくほっとしたが。もしかしたらスピルバーグは,あえて表現を抑えたのかもしれない。

翻って着物に戻ると,現在は蚕の命を奪わないワイルド・シルク,サステナブル・シルクというものも生産されているようだ。インド・シルク等と呼ばれている,節のある,それが味わいのあるシルクもその一つのようだ。この点はもっと勉強する必要がある。ただ,眠っている着物をいわば放置することが忍ばれず,私は箪笥に戻ることになった。あの小物類が何であるのか?どうやって使うのか?1本の長い帯がどうやってお太鼓の形になっているのか?背中についている紋にはどのような意味があるのか?色々調べてみた。それぞれの着物には,包装の和紙(後に「たとう紙」と呼ぶことを知る。)に手書きで名前が書かれていた。すでに他界された呉服屋さんの奥さんの字で,それが着物の種類,季節,技法を知るヒントになった。その後約1年かけて探求し,だいぶ着物のこと,着物を取り巻く状況のことが分かってきた。

思えばこれまでも着物との接点がなかったわけではない。高度経済成長後,手が届くようになった着物を国民が道具として集めだした昭和時代,母も親戚も行事の度に着物を着ていた。その後弁護士になり,強引な商法の被害者の問題が報道される中で,信販会社から依頼を受けて債権回収をしたこともあった。着物の購入が原因の消費者破産事件も多数目にした。その後,強引な商法も批判されて少なくなり,世の中はスピードアップし,衣服はカジュアル化し,日本の経済状況も悪化し,可処分所得は少なくなっていった。着物は着る工芸品として,人よっては苦い思い出とともに箪笥の奥にしまい込まれる運命をたどった。着物の歴史は,戦後日本の歴史を反映している。

そして現在,着物を取り巻く状況は次のフェーズに入っていると思う。着物が一般に普及し始めた頃,いろいろ難しいルールが広まって行った。まるで垣根が低いと値打ちがないかのように。そして着物警察なるものまで登場するようになり,これを利用して販売した呉服店もあったのではないか。しかし,難しくなければ値打ちがない,という時代は終わっていった。学問の世界も同様である。今やchatGPTを有効活用して課題を作成する時代に突入したからだ。そんな中,箪笥の中の眠れる着物はリユース着物として流通するようになり,難しいルールも風化しはじめ,やっと着物が呪縛から解かれてゆく空気を感じる。しかし,長すぎた時間の流れの中で,職人は高齢化し,後継ぎがおらず廃業が相次ぎ,コロナ禍が拍車をかけた結果,技術の承継が困難になってゆく状況がある。

さて,ではどうすればいいのか?ここからが今年の課題である。着物は,何よりも着用が難しい。美しく着ることはもっと難しい。動くと崩れる衣服等,洋服では考えられない。どんなに流通をシンプルにしても,そもそも製作に手間がかかり,高い技術が使われる以上高額にならざるを得ない。しかし今は,かつて10万円~数十万円した家具も安価に購入できる。他方で,職人に対しては,その高い技術にもかかわらず,見合った対価が支払われていないのではないか?そのため承継者が現れないのではないか?このことはアニメーター等他の分野の職人・アーティストにも言えることだが,着物についてはそもそも活躍の場・発表の晴れの場自体が狭まっているため,やりがいを見出すことも困難な状況がある。このように,すぐに思いつくだけでも色々な課題がある。

とりあえず実践できることからということで,昨年は自分で着物を着用できるようになった。他の課題についてはこれからである。まずは身近な法曹関係の友人・知人に話をする中で,最近母の着物を着るようになった,メルカリでリユースを購入しているという話を聞くようになってきた。そこで今年は,法曹界の仲間達と着物に関する知識を深め,その問題点を研究し,職人の労働環境改善と後継者育成についても議論できるような着物沼研究会を発足させたいなと密かに思っている。「やっぱり沼なんかい?!」と言われそうではあるが,無尽蔵に好奇心を刺激するという意味では,やはり着物は沼なのである。

着物とChatGPT,まるで無関係なようでつながる世界,私達がこの先人間的に生きるにはどうすべきなのかということを考えながら,蚕の導くその先に向かって進む2024年の幕開けである。

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